私たち医療従事者は、患者さんから損害賠償や訴訟で訴えられる可能性が常にあります。実際に誤薬が原因で後遺症が残り、5300万円請求された薬局もあります。実際に、私たち薬剤師が訴訟される可能性はどれくらいあるのでしょうか?
- 「薬剤師9人を行政処分、医師に疑義照会をしなかった…」
- 「薬剤師7人を1ヶ月〜3年間の業務停止処分にした…」
- 「薬剤師免許取消が3人、業務停止が6人…」
結論から伝えると、私たち薬剤師が訴えられる可能性はないです。
なぜならば、全国の医療関係者の訴訟件数は834件しかないからです。薬剤師だけの訴訟件数の統計はないが、医師よりも薬剤師の方が訴えられる可能性は低いです。日本薬師会に報告されている調剤事故件数は、年間30件程度しかないからです。
薬剤師1人が調剤事故を起こす確率は、年間で0.0001%しかありません。調剤事故を起こした上に、訴訟されるケースはないと言って良いですね。
また、実際に薬剤師が調剤事故や過誤を起こした場合も、私たちが訴えられる事もありません。医師や看護師と同様に訴えられるのは、病院や薬局だけです。なぜならば、医療事故や調剤事故の原因は、個人ではなく組織にあるからです。
普通の薬局に勤めれば、損害賠償や訴訟に出くわす可能性はゼロです。
ここでは、医療従事者の訴訟件数や薬剤師の調剤事故を紹介します。それから、薬剤師が過失を起こした際の行政処分の内容についても紹介します。調剤過誤や調剤事故では、業務停止や免許停止になることもありません。過度に恐れすぎないようにしましょう。
- 薬剤師の過失から、訴訟や損害賠償に発展する事例は?
- 薬剤師の訴訟や調剤事故、行政処分の年間件数は?
- 薬剤師が調剤過誤やミスを減らす方法は?
記事の内容を簡単に知りたい
薬剤師の過失から、訴訟や損害賠償に発展する事例は?
調剤事故から損害賠償や訴訟に発展する事例はありますね。日本薬剤師会に報告された2009年の調剤事故の事例を紹介します。
過失事例1)患者は弁護士を通じて40万円を要求する
患者は56歳女性。「ユニフィルLA錠400mg 1日1回夕食後」のところ、薬袋に「1日3回毎食後」と記入。
患者は昼と湯に1錠ずつ服用。夜間になり、手の振れ、動悸、不眠で一睡もできず、翌日受診し、点滴などの処置を受ける。その後も治療継続。2週間後、採血の結果が出て、医師より後遺症無しと説明される。患者は弁護士を通じて「既払金(治療費の一部負担、見舞金)を除いて40万円」の振り込みを要求。
過失事例2)脳梗塞の後遺障害が生じると5300万円を要求
患者は63歳男性。一包化した「1日1回朝食後」の薬剤5種類のうちの1種類。「ノルバスク錠5mg」のところ、「ラニラピッド錠0.01mg」を調剤する。錠剤自動分包機のカセットの入れ間違いが原因と考えられた。
患者は誤調剤した薬剤を服用した期間中に脳梗塞で緊急入院。患者の弁護士は、「過失と脳梗塞の因果関係は認められる。脳梗塞による高次脳機能障害の後遺障害が生じている」として、薬局に対し5300万円を要求する。
過失事例3)子供が飲みきれない渡し薬剤科長が謝罪する
○○国立病院機構。救命救急科の医師(28歳)が2歳男児に対し、「メイアクトMS小児用顆粒 1日90mg/分3/5日分」処方するところ、「1日900mg」と誤記する(=電子データに入力する)。薬剤師は処方どおり調剤する。
男児の母親が「子どもが薬を飲みきれない。量が多いのでは」と病院へ問い合わせしたが、病院は飲み方などをアドバイス。その後、職員が処方せんを調べ間違いに気づく。男児の体調に影響は無し。同病院は謝罪。薬剤科長は「薬剤師が見逃したのはミス」と述べる。病院は薬剤師に改めてチェックの徹底を促したほか、小児用の薬の分量が多い場合は入力できないようにプログラムを改善する。
では、私たち薬剤師が、訴訟される可能性はどれくらいあるのでしょうか?
薬剤師の訴訟や調剤事故、行政処分の年間件数は?
薬剤師単体の訴訟件数のデータはなく、医療関係全体の訴訟件数を紹介します。
その1:医療関係者の訴訟件数は「834件」?
医療関係者の訴訟件数は2016年で834件です。1992年(平成4年)から2004年まで増加傾向でした。しかしながら、2004年以降は800件前後で落ち着いていますね。また、実際に訴訟から医療損害賠償を支払うケースは、60%前後で推移しています。
診療科目別に既済件数割合は次の通りです。
- 内科22.6%(件数H22年237件→H28年169件)
- 外科15.2%(件数H22年142件→H28年114件)
- 歯科12.1%(件数H22年72件→H28年91件)
- 整形外科11.6%(件数H22年105件→H28年114件)
- 産婦人科6.9%(件数H22年89件→H28年52件)
1番多い診療科目で全体の22.6%を占めますね。
医療関係者訴訟の中で、薬剤師が訴えられる可能性は極めて低いと言えます。なぜならば、薬剤師会に報告されている調剤事故の発生件数は、年間30件程度しかないからです。調剤事故が原因で訴訟されるケースは、年間2〜3件しかないと予想できます。
その2:薬剤師の調剤事故件数は「27件」?
- 薬剤師が起こす調剤事故は、年間30件ほど発生する
- 薬剤師が起こす調剤事故の確率は、0.0001%だけ
- 薬剤師が起こすヒヤリハット事例は、年間5399件ほど
- 薬剤師が起こすヒヤリハット事例の確率は、0.017%だけ
調剤事故が原因で患者に後遺症が残り、多額の損害賠償を請求されるケースもあります。例えば、2009年の事例では、後遺障害が生じたと判断し薬局に5300万円を要求しています。
しかしながら、全体的に見た時に訴訟されるケースは極めて稀です。
薬剤師が引き起こす調剤事故は、年間で30件程度しかありません。薬剤師は全国に30万人以上いるため、調剤事故を起こす確実は0.0001%しかないですね。また、事故未遂であるヒヤリハット事例は、年間で5399件程です。これも確率にすると、0.017%ですね。
調剤は事故未遂が多いけど、実際に事故まで発展するケースは稀だと言えます。緊張感を持つのは重要だけど、過度に訴訟を恐れて神経質になる必要はないですね。
では、調剤事故が起きた場合に、薬剤師はどのような行政処分がされるのでしょうか?
その3:薬剤師の行政処分は年間で「7件」だけ?
- 業務停止2年:1件(医薬品医療機器等法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反1件)
- 業務停止1年:1件(強制わいせつ1件)
- 業務停止6月:1件(窃盗1件)
- 業務停止3月:2件(不正請求2件)
- 業務停止2月:1件(麻薬及び向精神薬取締法違反1件)
- 業務停止1月:1件(道路交通法違反1件)
2019年に発生した業務停止処分は7件、免許停止処分は0件でした。2019年に限らず、行政処分は毎年10件程度で推移しています。行政処分を受けた薬剤師の事例を見れば分かる通り、調剤過誤やミスが原因で処分される事はありません。
行政処分まで発展するのは、医薬品の盗難や横領など犯罪性がある悪質なケースだけですね。訴訟されたとしても、業務停止や免許停止になる事はありません。また、仮に訴訟されたとしても、薬剤師個人に対して訴える患者もいません。
医療事故が起きるのは、病院や薬局などシステムに重大な問題があるからです。
訴訟について心配する必要はないが、常にミスがないように業務を執行する必要がありますね。では、私たち薬剤師はどのようにしてミスを防げば良いのでしょうか?
薬剤師が調剤過誤やミスを減らす方法は?
私たち薬剤師が、調剤過誤やミスを事前に減らすにはどうすれば良いでしょうか。
方法1:「日本薬剤研修センター」の勉強会に参加する
- 研修に参加する事で、薬剤師に必要な情報をアップデートできる
- 行政処分や違反内容を学ぶ事ができ、危機感が強くなる
- 他の薬剤師と交流する事で、モチベーションが上がる
- 研修を受講する事で、実務や薬剤師資格の復習になる
- 薬剤師として、一定以上のレベルがある事を証明できる
- 「かかりつけ薬剤師」になるには、研修認定薬剤師が必要
薬剤師の違反や行政処分が怖い人は、「研修センター」の勉強会に参加しましょう。
研修センターとは、元厚生労働省の公益財団法人で生涯学習を支援する機関です。研修に参加する事で、定期的に薬剤師に必要な情報をアップデートできますね。また、他の薬剤師と交流し学習意欲を高めたり、行政処分や違反の事例を学ぶ事で危機意識を高められます。
研修センターの認定資格は、必要ないと語る薬剤師は多いですね。しかし、学びたい目的がはっきりしてる薬事師には有益ですよね。
参考:研修認定薬剤師は本当に必要?|転職市場では評価されない?
方法2:個人ではなく「組織」でミスや事故を減らす
- ミスや事故が少ない薬局は、組織でミスを減らす仕組みがある
- 薬剤師も人間なので、ミスを0件にするのは物理的に不可能
- 2014年に報告されたヒヤリハット事例は、5399件もある
- 「当事者の確認怠り」は、全体の77%を占める
- ダブルチェックする薬局では、ミスがほとんど発生しない
私たち薬剤師で1番多いミスは、確認を怠る事による誤薬です。
2014年に報告された5399件のヒヤリハット事例のうち、「当事者の確認怠り」が全体の77%を占めます(参考:日本医療機能評価機構2014年度調査)。ミスを気をつけようと意識しても、個人の力ではミスを防ぐのは無理ですよね。
なぜならば、私たち人間は誰しもが必ずミスを犯すからです。
ミスが多い薬局と少ない薬局の違いは、組織で防ぐ仕組みの有無です。ミスが少ない薬局は、人件費を余分に費やしてもダブルチェックします。なぜならば、ミスを防ぐ事が経営を助けるからです。ミスを防ぐ事で助けられるのは、患者だけではなく私たち薬剤師自身でもありますね。
組織で仕組みや体制作りしない薬局は、ブラックが多いです。
方法3:1人体制の「ブラック薬局」で働かない
- 薬局の閉店時間が遅く、残業代を支給しない
- 求人票の月給や年収が少なく、昇給額も少ない
- 24時間営業なのに、夜勤対応のスタッフを募集してない
- 薬剤師の数が多い地域で、周辺に薬局が少ない
- 職場の雰囲気が悪い、薬剤師1人体勢の時間帯もある
- 調剤事務が少なく、薬剤師も調剤業務に追われてる
調剤過誤やミスを防ぐには、ブラックを避けて就職する事が大切です。
なぜならば、事故やミスが多い薬局ほど、労働環境が悪い職場多いからです。2人体制でダブルチェックを行う薬局よりも、1人体制でチェック機能が働かない薬局の方がミスは増えます。医薬品が必要な患者が利用したいのは、万全体制の薬局ですよね。
私たちの薬剤師自身を守るためにも、調剤過誤やミスの意識が高い職場で働きましょう。
まとめ:薬剤師の過失から訴訟事例は?
- 医療関係者の訴訟件数は、年間834件しかない
- 薬剤師が起こす調剤事故は、年間30件ほど発生する
- 薬剤師が起こす調剤事故の確率は、0.0001%だけ
- 薬剤師が起こすヒヤリハット事例は、年間5399件ほど
- 薬剤師が起こすヒヤリハット事例の確率は、0.017%だけ
私たち薬剤師が訴えられる可能性はないですね。なぜならば、全国の医療関係者の訴訟件数は834件しかないからです。薬剤師だけの訴訟件数の統計はないが、医師よりも薬剤師の方が訴えられる可能性は低いです。
また、日本薬師会に報告されている調剤事故件数は、年間30件程度しかないからです。薬剤師1人が調剤事故を起こす確率は、年間で0.0001%しかありません。調剤事故を起こした上に、訴訟されるケースはないと言って良いですね。
また、実際に薬剤師が調剤事故や過誤を起こした場合も、私たちが訴えられる事もありません。医師や看護師と同様に訴えられるのは、病院や薬局だけです。なぜならば、医療事故や調剤事故の原因は、個人ではなく組織にあるからです。
普通の薬局に勤めれば、損害賠償や訴訟に出くわす可能性はゼロです。また、調剤過誤や調剤事故でも、業務停止や免許が取り消される事もありません。ミスをしない事は大事だが、損害賠償や訴訟を過度に心配しすぎないようにしましょう。
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