薬剤師として働くには、厚生労働大臣から免許が与えられます。もしも、私たち薬剤師が重大な犯罪や違反を犯してしまうと、免許を剥奪される可能性もあります。では、過去に薬剤師が違反行為を行った場合に、どのような過失があるのでしょうか?
- 「薬剤師9人を行政処分、医師に疑義照会をしなかった…」
- 「薬剤師7人を1ヶ月〜3年間の業務停止処分にした…」
- 「薬剤師免許取消が3人、業務停止が6人…」
私たち薬剤師が違反を犯した場合、大きく3つの処罰内容があります。
過失や失態、飛行を戒める「戒告処分」、最大で3年間の「業務停止処分」、それから薬剤師の資格を剥奪される「免許停止処分」です。行政処分は「医道審議会」の決定を受けて、厚生労働省が行います。
過去の事例から、違反や行政処分を必要以上に心配する薬剤師は多いです。
しかしながら、普通に働いている薬剤師は、過度に違反を心配する必要はありません。なぜならば、行政処分を受ける薬剤師は、毎年10件程度しかないからです。その中で、免許取消となるような重大な過失は0〜2件程度です。薬の窃盗や麻薬販売など、本当に悪質なケースだけです。
私たちが注意すべきは、違反行為よりも調剤過誤などのミスですね。
ここでは、薬剤師にはどんな違反行為があるのか紹介します。また、違反した場合の処罰内容についても紹介します。違反行為や行政処分を気にするよりも、私たちは現場で起きるミスを気にした方が良いですね。
- 過去事例から、どのような行政処分が行われたのか?
- 違反した薬剤師の処罰内容、行政処分の発生件数は?
- 薬剤師が調剤過誤やミスを減らす方法は?
記事の内容を簡単に知りたい
過去事例から、どのような行政処分が行われたのか…
医道審議会(医道審議会薬剤師分科会薬剤師倫理部会)の決定を受けて、厚生労働省が薬剤師に行政処分を行います。それでは、過去にはどのような行政処分があったのでしょうか?
事例1)薬剤師9人を行政処分、疑義照会がなかった…
厚生労働省は、医道審議会薬剤師分科会薬剤師倫理部会の決定を受け、薬剤師9人を行政処分する。薬剤師免許の取り消しはなく、業務停止が9人で、19日から発効となる。
今回、最長3年間の業務停止を受けた案件は、調剤報酬の不正請求、薬剤師不在時の無資格者による調剤黙認に加え、大量の向精神薬を疑義照会しないまま調剤した薬剤師。2011年4月1日に保険薬剤師の登録取消処分が確定していた。
参考:薬事日報
事例2)薬剤師7人を1ヶ月〜3年間の業務停止処分…
厚生労働省は17日、医道審議会薬剤師分科会薬剤師倫理部会の答申を受け、薬剤師7人を行政処分すると発表した。いずれも1カ月~3年間の業務停止。処分の発行は今月31日からとなる。勤務先で保管していた医薬品を複数回横領していた薬剤師は3年間の業務停止となり、オキシコンチン錠など医療用麻薬を無施錠の薬品棚内に入れて保管していた薬剤師は2カ月の業務停止となった。処分対象者は以下の通り。
▽堀口博文(62歳・神奈川県横浜市):勤務先の薬局で保管していた医薬品を複数回にわたって着服、横領したことから、業務上横領により3年2月の懲役刑が確定した。業務停止3年間。
▽菊地欣昭(60歳・静岡県伊豆市):勤務する医療法人が経営する病院および老人保健施設で保管していたアレジオン20mg計25箱(仕入れ額計398万2025円)を、医薬品取扱業者に売却してその代金を得るため、25回にわたって病院から持ち出し、横領した。業務上横領により、1年6月の懲役刑が確定した。業務停止2年間。
▽浅賀彦人(43歳・静岡県袋井市):静岡県内の歩道で下半身を露出したことから、公然わいせつにより罰金刑が確定した。業務停止2カ月。
▽吉田稔(55歳・広島県呉市):勤務先の薬局において、麻薬取扱者として管理すべきオキシコンチン錠49錠など医療用麻薬計97点を鍵をかけた設備内に貯蔵して保管せず、無施錠の薬品棚内に入れて保管していたことから、麻薬及び向精神薬取締法違反により、罰金刑が確定した。業務停止2カ月。
▽村田雄嗣(63歳・山口県大島郡):酒気を帯びた状態で自動車を運転したことから、道路交通法違反で罰金が確定した。業務停止1カ月。
▽ウイルキンソン五月(59歳・長崎県長崎市):酒気を帯びた状態で自動車を運転し、道路交通法違反で罰金が確定した。業務停止1カ月。
▽鈴木妙子(39歳・山梨県大月市):酒気を帯びた状態で自動車を運転し、道路交通法違反で罰金が確定した。業務停止1カ月。
事例3)薬剤師免許取消が3人、業務停止が6人…
厚生労働省は、医道審議会薬剤師分科会薬剤師倫理部会の決定を受け、薬剤師9人を行政処分する。薬剤師免許の取り消しは3人で、業務停止が6人。11月10日から発効となる。
免許取り消しとなった3件は、窃盗、麻薬及び向精神薬取締法違反、覚せい剤取締法違反で執行猶予つき懲役刑が確定している。
業務停止案件では、大阪府知事から薬事法で禁止されている医療用医薬品のインターネット販売の中止を求める業務改善命令書を受領したにもかかわらず、販売を継続した薬剤師が3カ月の業務停止処分となった。
参考:薬剤日報
以上のように、薬剤師は過去にたくさんの行政処分が行われています。
では、薬剤師が違反行為を行った場合には、どのような処罰があるのでしょうか?また、年間で行政処分はどれくらい発生しているでしょうか?
違反した薬剤師の処罰内容とは?行政処分の発生件数は?
国家資格である薬剤師は、違反行為が明確に定義されています。違反内容次第では、免許取消など厳しい行政処分もあり得ます。
その1:薬剤師はどんな「違反行為」があるのか?
違反種類 | 違反概要 |
---|---|
薬剤師法違反 | 薬剤師が行う、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどる行為については、医療をはじめとして公衆衛生の向上及び増進など、国民の健康な生活の確保に直結する極めて重要なものであることから、薬剤師法において、薬剤師の資格・業務を定め、原則、薬剤師以外の者が調剤や医薬品の供給などを行うことを禁止し、その罰則規定は、国民の健康な生活に及ぼす危険性の大きさを考慮して量刑が規定されているところである。 |
身分法違反 | 医師や歯科医師が行う医業は、国民の健康に直結する極めて重要なものであることから、医師法、歯科医師法において、医師、歯科医師の資格・業務を定め、医師、歯科医師以外の者が医業、歯科医業を行うことを禁止し、その罰則規定は、国民保健に及ぼす危険性の大きさを考慮して量刑が規定されているところである。 |
薬事法違反 | 薬事法は、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保に必要な措置等を講じることにより、保健衛生の向上を図ることを目的としている。行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、国民の健康な生活を確保する任務を負うべき薬剤師が薬事法に違反することは、基本的倫理を遵守せず、国民の健康を危険にさらす行為であることから、重い処分とする。 |
麻薬及び向精神薬取締法違反 | 麻薬、覚せい剤等に関する犯罪に対する司法処分は、一般的には懲役刑となる場合が多く、その量刑は、不法譲渡した場合や不法所持した麻薬等の量、施用期間の長さ等を勘案して決定され、累犯者については、更に重い処分となっている。行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、国民の健康な生活を確保する任務を負うべき薬剤師が、麻薬等の薬効の知識を有し、その害の大きさを十分認識しているにも関わらず、自ら違反したということに対しては、重い処分とする。 |
参考:薬剤師への行政処分(2):薬剤師法違反、交通事故・交通事犯
免許制度である薬剤師は、違反内容が厳しく制定されていますね。具体的にどのような行為が違反行為に当たるかは、薬剤師法に記載されています。いくつか代表的なものを紹介します。
- 薬剤師でない人は調剤してはいけません(病院・診療所の場合に例外があります)(薬剤師法第19条)。
- 薬剤師は医師、歯科医師又は獣医師が書いた処方せんに基づいて調剤しなければなりません(薬剤師法第23条)。また、その処方せんの中に不明確な点があれば、それを医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせなければなりません(薬剤師法第24条)。処方せんを書いた医師、歯科医師又は獣医師は、薬局の薬剤師からその処方せんに関わる質問を受けたときには、適切に回答しなければなりません(保険医療機関及び保険医療養担当規則)。
- 薬剤師は調剤した医薬品の使い方等について、医薬品の容器や袋に記載しなければなりません(薬剤師法第25条)。
- 薬剤師は調剤した医薬品に関して患者さんまたはその家族にきちんと説明し、また必要な薬学的知見に基づいた指導を行わなければなりません(薬剤師法第25条の2)。
- 調剤した処方せんや、調剤に関する事項についてのさまざまな記録を保管しなければなりません(薬剤師法第27条、第28条)。
その2:違反した場合の3段階の「処罰内容」は?
- 戒告処分:過失・失態・非行などを強く戒めること
- 業務停止処分:最大で3年以内の業務停止
- 免許停止処分:薬剤師免許の取り消し
薬剤師の処罰で最も軽いのは「戒告処分」ですね。
戒告処分は違法を犯したけれども、深刻な過失ではない時に適用されます。例えば、例えば、薬剤師が不正請求の事例を認識していたけれども、それを見過ごした場合ですね。
「業務停止処分」は、3年を超える停止は想定していません。なぜならば、長期間実務から遠ざかることで、技術的な支障が発生する可能性もあるからですね。3年を超える場合には、薬剤師免許の取り消しが検討されます。
免許停止後に再取得可能だが、違反次第では2度と取得できない事例もあります。
違反や行政処分を必要以上に心配してる薬剤師は多いです。しかしながら、行政処分の件数を見ると、過度に心配する必要がない事がわかります。
その3:2019年の行政処分は「7件」だけ?
- 業務停止2年:1件(医薬品医療機器等法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反1件)
- 業務停止1年:1件(強制わいせつ1件)
- 業務停止6月:1件(窃盗1件)
- 業務停止3月:2件(不正請求2件)
- 業務停止2月:1件(麻薬及び向精神薬取締法違反1件)
- 業務停止1月:1件(道路交通法違反1件)
2019年に発生した業務停止処分は、わずか7件だけです。免許停止処分と訓戒処分は、どちらも0件だけですね。薬剤師は全国に30万人を超えるため、行政処分で処分される可能性は0.00023%しかない事が分かります。
2019年に限らず、行政処分は毎年10件程度で推移しています。免許停止となる薬剤師も、年間に1人か2人しかいません。私たち薬剤師は、違反や行政処分について過度に心配する必要はありません。
しかしながら、うっかりミスやヒヤリハットは、年間で5399件も報告されています。行政処分を心配するよりも、どうしたらミスを減らせるのか考えましょう?
薬剤師が調剤過誤やミスを減らす方法は?
私たち薬剤師が、調剤過誤やミスを事前に減らすにはどうすれば良いでしょうか。
方法1:「日本薬剤研修センター」の勉強会に参加する
- 研修に参加する事で、薬剤師に必要な情報をアップデートできる
- 行政処分や違反内容を学ぶ事ができ、危機感が強くなる
- 他の薬剤師と交流する事で、モチベーションが上がる
- 研修を受講する事で、実務や薬剤師資格の復習になる
- 薬剤師として、一定以上のレベルがある事を証明できる
- 「かかりつけ薬剤師」になるには、研修認定薬剤師が必要
薬剤師の違反や行政処分が怖い人は、「研修センター」の勉強会に参加しましょう。
研修センターとは、元厚生労働省の公益財団法人で生涯学習を支援する機関です。研修に参加する事で、定期的に薬剤師に必要な情報をアップデートできますね。また、他の薬剤師と交流し学習意欲を高めたり、行政処分や違反の事例を学ぶ事で危機意識を高められます。
研修センターの認定資格は、必要ないと語る薬剤師は多いですね。しかし、学びたい目的がはっきりしてる薬事師には有益ですよね。
参考:研修認定薬剤師は本当に必要?|転職市場では評価されない?
方法2:個人ではなく「組織」でミスや事故を減らす
- ミスや事故が少ない薬局は、組織でミスを減らす仕組みがある
- 薬剤師も人間なので、ミスを0件にするのは物理的に不可能
- 2014年に報告されたヒヤリハット事例は、5399件もある
- 「当事者の確認怠り」は、全体の77%を占める
- ダブルチェックする薬局では、ミスがほとんど発生しない
私たち薬剤師で1番多いミスは、確認を怠る事による誤薬です。
2014年に報告された5399件のヒヤリハット事例のうち、「当事者の確認怠り」が全体の77%を占めます(参考:日本医療機能評価機構2014年度調査)。ミスを気をつけようと意識しても、個人の力ではミスを防ぐのは無理ですよね。
なぜならば、私たち人間は誰しもが必ずミスを犯すからです。
ミスが多い薬局と少ない薬局の違いは、組織で防ぐ仕組みの有無です。ミスが少ない薬局は、人件費を余分に費やしてもダブルチェックします。なぜならば、ミスを防ぐ事が経営を助けるからです。ミスを防ぐ事で助けられるのは、患者だけではなく私たち薬剤師自身でもありますね。
組織で仕組みや体制作りしない薬局は、ブラックが多いです。
方法3:1人体制の「ブラック薬局」で働かない
- 薬局の閉店時間が遅く、残業代を支給しない
- 求人票の月給や年収が少なく、昇給額も少ない
- 24時間営業なのに、夜勤対応のスタッフを募集してない
- 薬剤師の数が多い地域で、周辺に薬局が少ない
- 職場の雰囲気が悪い、薬剤師1人体勢の時間帯もある
- 調剤事務が少なく、薬剤師も調剤業務に追われてる
調剤過誤やミスを防ぐには、ブラックを避けて就職する事が大切です。
なぜならば、事故やミスが多い薬局ほど、労働環境が悪い職場多いからです。2人体制でダブルチェックを行う薬局よりも、1人体制でチェック機能が働かない薬局の方がミスは増えます。医薬品が必要な患者が利用したいのは、万全体制の薬局ですよね。
私たちの薬剤師自身を守るためにも、調剤過誤やミスの意識が高い職場で働きましょう。
まとめ:薬剤師が違反すると免許を剥奪される?
- 業務停止2年:1件(医薬品医療機器等法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反1件)
- 業務停止1年:1件(強制わいせつ1件)
- 業務停止6月:1件(窃盗1件)
- 業務停止3月:2件(不正請求2件)
- 業務停止2月:1件(麻薬及び向精神薬取締法違反1件)
- 業務停止1月:1件(道路交通法違反1件)
私たち薬剤師が違反を犯した場合、大きく3つの処罰内容がありますね。過失や失態、飛行を戒める「戒告処分」、最大で3年間の「業務停止処分」、それから薬剤師の資格を剥奪される「免許停止処分」です。行政処分は「医道審議会」の決定を受けて、厚生労働省が行います。
過去の事例から、違反や行政処分を必要以上に心配する薬剤師は多いです。
しかしながら、普通に働いている薬剤師は、過度に違反を心配する必要はありません。なぜならば、行政処分を受ける薬剤師は、毎年10件程度しかないからです。その中で、免許取消となるような重大な過失は0〜2件程度です。薬の窃盗や麻薬販売など、本当に悪質なケースだけです。
私たちが注意すべきは、違反行為よりも調剤過誤などのミスですね。違反行為や行政処分を気にするよりも、私たちは現場で起きるミスを気にした方が良いですね。うっかりミスやヒヤリハットは、年間で5399件にも昇ると報告されています。
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